「強者女性たちのシスターフッド」としての『ウマ娘』

「ベクデル・テスト」なるものがある。これは、フィクションにおける「ジェンダーバイアス」を測定するものだが、どこか違和感がある。

①最低でも、二人の女性が登場するか?

②女性同士の会話はあるか?

③その会話の中で、男性に関する話題「以外」が出てくるかが問われる。

④登場する女性に名前がついていることも、時としてテストの条件に付加される。

 これはズバリ、日本の男性向けオタクコンテンツの多くが「合格」するのではないのだろうか? だって、「美少女」しかいないコンテンツならば、上記4つ全てクリア出来るだろうし。しかし、その手の(「女体好きの女嫌い」ホイホイである)コンテンツは、少なからぬ「自称フェミニスト」の女性たちが不愉快に思っている。

 もちろん、全てのフェミニストたちが男性向けオタクコンテンツ全般に対して否定的なのではない。自らがオタク的な趣味嗜好を持つフェミニストの女性たちだって、少なくない。あの『ウマ娘』は間違いなくベクデル・テストに合格しているけど、上辺だけの「合格」ではない。少なくとも、下手な女性向けオタクコンテンツ(要するに、BLや乙女ゲームやティーンズラブ漫画など)よりもよっぽど「シスターフッド」を描いているので、見かけよりはよっぽどフェミニズム的なコンテンツである。ただし、結局は「フェミニズム=強者女性のためのもの」というのを匂わせるが。

 

 さて、私は半世紀以上生きているオバちゃんだが、『ウマ娘』というアプリゲームで遊んでいる。しかし、歳が歳だけに、屈託なく楽しんでいるというのでもない。なぜなら、『ウマ娘』の世界観と私自身の女子高時代とでは、まさしく天と地ほどの差があるからだ。要するに、私自身の青春時代は「陰キャ」の「非リア充」だったのだ。

 そもそも、ウマ娘という種族自体が「強者女性」の隠喩 メタファー である。要するに、彼女たちは『ファイブスター物語』(以下、FSS)における女性騎士と同じような存在である。余談だが、仮に現実世界にFSSの女性騎士と女性型ファティマ双方が存在すれば、より一層、一般人女性に嫉妬されやすいのは女性騎士の方だろう。なぜなら、ファティマたちが一般人女性に対して外見的に勝る要素は、実質的に「顔立ちの美しさ」と「不老」しかないからなのだ。そして、女性騎士は女性型ファティマ以上に「強者女性」としての存在感を放っているゆえに、より一層、一般人女性からの嫉妬心を集める可能性が高い。

 とりあえず、『ウマ娘』の世界にはシスジェンダー男性の「ウマ息子」ならぬ「ウマ男子」はいないが(言うまでもなく、ウマ娘の「娘」は「daughter」ではなく「girl」である)、その代わり、トランスジェンダー男性の「ウマ男子」ならば存在する可能性は考えられる。ただし、骨格レベルで一般人とは違う肉体ゆえに、一般人のトランスジェンダー男性以上に苦労を強いられるだろう。仮に性別適合手術や断尾手術を受けても、ウマ娘のもう一つの身体的特徴であるウマ耳が頭上にある限り、一般人のトランスジェンダー男性のような「埋没」は出来ない。

 

(念のため言っておきますが、私はトランスジェンダーの人たちに対する差別に反対します。『ハリー・ポッター』シリーズの作者さんがトランスジェンダー差別をしているのを知った時にはガッカリしました。『キングダム』の作者さんの女性関係トラブルにも幻滅しましたけど、害悪さはそちらよりあちらの方がはるかに上です)

 

 ウマ娘たちは、FSSの女性騎士たちと同じく「強者女性」の隠喩 メタファー である。卓越した能力と社会的地位こそが「強者女性」を表す要素だ。それゆえに、FSSの女性騎士は女性型ファティマ以上に一般人女性に嫉妬される可能性が高い。ただし、FSSの騎士の能力には男女差はない。あくまでも、個人単位での優劣しかない。

 FSSの騎士の能力や社会的地位はピンからキリまでだが、当然、ウマ娘にも同じ事が言える。物語の舞台となる「トレセン学園」に入学出来るのは、ほんの一握りのエリートたちである(ただし、ハルウララのような例外もいる)。そして、我々の世界における「フェミニズム」並びに「フェミニスト」もまた、女子カースト上位層の女性たちが主導権を握っている。

 そう、『ウマ娘』の世界観で描かれている「シスターフッド」とは、まさしく選ばれし者たちの楽園である。桐野夏生氏の小説『グロテスク』とは対照的な世界観である。1990年代に活躍した名馬がモデルのウマ娘ナリタタイシンは、ウマ娘としての優れた能力という「強者女性」要素と、小柄で病弱な身体という「弱者女性」要素を併せ持つ人物として、この「楽園」に迎えられたが、ビワハヤヒデとウイニングチケットという二人の盟友たちを得て栄光を目指す。このゲームはただの「美少女コンテンツ」ではないのだ。

【ウマ娘 - うまぴょい伝説】

 想定外の社会現象になった『ウマ娘』だが、これは、BLや乙女ゲームなどの既成の女性向けオタクコンテンツに対して馴染めないオタク女子の受け皿としての人気も、少なからずあると思う。それに、妹キャラや巨乳キャラが必ずしも同性に嫌われるとは限らないのだ(現実もフィクションも)。

 女性は男性が思うよりは美人の同性に対して寛容だが、その代わり、不美人の同性に対する反感は根深い。おそらくは、男性が無能な同性を嫌うのと同じくらいには。「ブス」の男性版は「ブサメン」「ブ男」ではなく「無能な男」なのだ。逆に「イケメン」の女性版は「美女」ではなく「才女」「才媛」である。「才子佳人」という四字熟語は、そのような男女の対比を暗示する。

 ちなみに、ある女性ブロガーさんは「女は『いい男』よりも『自分をいい女だと思わせてくれる男』を好む」と書いていたが、『ドラえもん』のしずかちゃんが出木杉君ではなくのび太を選んだのは、要するにそういう事なのである。