反機能性は「セレブ」の印?

 昔の王侯貴族は「機能性が低い」格好をしていた。要するに、機能的な格好とは、労働者階級の印なのだ(趙の武霊王の「胡服騎射」に対する反発とは、単に異民族の風習を導入する事に対する反発のみならず、上流階級に機能的な格好をさせる事に対する反発もあっただろう)。そして、白い肌が「美しい」とされる美意識とは、外で働く必要がないゆえに日焼けをしない上流階級を示している。そう、肌の色に基づく人種差別とは、身分差別の延長線上のものなのだ。

 昔の中国には纏足があったが、さすがに全ての女性に強制されたのではない。身分の低い女性労働者には、さすがに纏足を施す事は出来ない。ちなみにシンデレラ伝説には中国起源説があるようだが、言うまでもなく、小さな足が「美しい」という美意識ゆえにそのような説があるのだ。


 ちょっと昔(90年代)の日本では、厚底靴が若い女性たちの間で流行った。ネイルアートは今でもすっかり一般的なオシャレになっている。いずれも「機能的ではない」ものである。

 ツイッターには、セクハラ被害を告発する「#MeToo」をもじった「#KuToo」というハッシュタグがある。これは、仕事でのパンプスやハイヒールの強制は理不尽だと、女性たちが声を上げたものであり、前述の「#MeToo」にさらに「靴」と「苦痛」を掛けた言葉で、国や企業の対応を求める署名集めもある。私はパンプスやハイヒールを強制される職場では働いた事がないが、外反母趾などに苦しむ女性たちがいる現実からして、起こるべくして起こった運動だと思う。

 そもそも、女性たちが職場でパンプスやハイヒールを強制されるというのは、暗に「職場の華」という立場であるのを求められるのを示している。つまりは、マトモに「戦力」として扱われていないのではないのか? 何てバカバカしい事態なのか? 「職場の華」で、男性社員の花嫁候補としての女性社員しか求めない企業なんて、要するに公私混同じゃないの? 

 とは言え、世の中には「お茶くみ」だけの仕事に満足して、仕事は「腰掛け」だと割り切っている女性もいるだろう。そのように、男性関係でやたらと要領の良い女性がいわゆる「名誉男性」として嫌われるのだが、そんな女性だって、窮屈な靴に悩まされるだろう。


 靴と機能性の関係で違和感があるのは、我が最愛の漫画『ファイブスター物語』(以下、FSS)である。私は30年以上この漫画の愛読者であるが、さすがに30年以上も経つと、世間や自分自身の価値観が変わっていく。それで、FSSの世界観の奇妙さに気づいてしまう。ズバリ、女性の騎士やファティマたちがハイヒールのパンプスやブーツを履いて戦うのはおかしい。 

 作者の永野護氏はFSSの設定集『クロス・ジャマー』で、女性騎士がミニスカートタイプの戦闘服を着る事が多いのは、精鋭部隊としてのカッコ良さを演出して宣伝するためとしている。確かに、長い脚を見せつける女性騎士たちはカッコいい。しかし、それでもハイヒールは現実的には無理がある。まあ、永野先生もおっしゃる通り、FSSは「おとぎ話」だから、ハイヒールで戦う女性たちがいるのね。

【相対性理論 - シンデレラ】