太鼓の魔力

 ハレルヤ。

 聖所で 神を賛美せよ。

 大空の砦で 神を賛美せよ。

 力強い御業のゆえに 神を賛美せよ。 

 大きな御力のゆえに 神を賛美せよ。

 角笛を吹いて 神を賛美せよ。 

 琴と竪琴を奏でて 神を賛美せよ。

 太鼓に合わせて踊りながら 神を賛美せよ。 

 弦をかき鳴らし笛を吹いて 神を賛美せよ。 

 シンバルを鳴らし 神を賛美せよ。

 シンバルを響かせて 神を賛美せよ。

 (『旧約聖書』詩篇150) 


 檀原照和氏の『ヴードゥー大全』(夏目書房)には、ヴードゥー教などのアフリカ系信仰における太鼓の重要性について書かれている。この本には、太鼓にまつわる実に興味深いエピソードが紹介されているが、私が特に気になったのは、次に挙げるエピソードだ。

 16世紀のイタリアのパレルモに、聖ベネディクト(ベネデット・イル・モーロ)という修道院長がいた。この人の両親はアフリカ系、すなわち黒人の奴隷だった。その息子ベネディクトは長じて修道士になり、様々な奇跡を起こしたという。その黒人聖者ベネディクトが亡くなり、葬式が行われた。 

 葬儀の際にはトランペットなどの楽器で葬送曲が演奏されるのだが、ベネディクトの棺はなぜか重くて動かせなかった。8人がかりで担ごうとしても、聖堂から運び出せない。なぜ? 


(トン! トン! トン! トン!)


 その時、ある黒人(とりあえず、『ヴードゥー大全』には、当人の性別や立場についての記述はなかった)が太鼓の演奏を始めた。すると、それまで頑として動かなかった棺が軽くなり、運び手たちは無事に聖人の棺を聖堂から運び出せた。 

 太鼓には、魔力がある。

『世説新語』には、東晋の有力な貴族だった王敦の太鼓のエピソードがある。王敦は都会育ちの貴族連中から田舎者だとバカにされて劣等感を抱いていたが、豪快に太鼓の演奏をして他の貴族たちを驚かせた。そういえば、三国志の毒舌キャラ代表格である禰衡も、太鼓の達人(ゲームに非ず)エピソードがあったね。


 太鼓。リズム。現代のポピュラー音楽は、アメリカを経由してアフリカ系音楽の影響下にある。

 私は数年前、札幌市内で行われた戦争法案反対デモに参加した。デモ隊の前の方には、何人かのマーチングドラム演奏者がいた。私たちは、力強いドラム演奏に乗って道を進んだ。その激しく力強い音色に、私は感激した。 

 そう、太鼓の音色には人間の本能に訴えかけるかのような魔力がある。心臓の鼓動と共鳴するかのような、力強い音だ。

【鼓童 - 道】

 私がこの鼓童というグループの存在を初めて知ったのは、今はなき「FMステーション」(略称はFS)誌に掲載されていた音楽レビューだった。FSはタイトル通り、FMラジオ専門誌だったのだが、実質的には、様々なジャンルの楽曲やミュージシャンを扱う「総合音楽誌」というべき雑誌だった。

 本や読書をテーマにした雑誌として「ダ・ヴィンチ」があるが、そのダ・ヴィンチ誌の音楽版みたいな総合音楽誌が創刊されれば良いのにね。