性善説、性悪説

 私が思うに、ファッションというもの、特に女性向けのファッションには「性善説系」と「性悪説系」の二通りがあるだろう。「ファッションに性善説も性悪説もあるかい!」というツッコミもあるだろうが、ファッションとは結構奥深い分野の文化である。

 特に、若い人たちのファッションとは、その人自身の「思想」や「価値観」が露骨に表れるものだろう。要するに、服飾品の形をした名刺や履歴書(ファッション自体の方向性次第では請求書)のようなものだ。

 例えば、今は流行の最先端から遠ざかったものとして、ギャル系ファッションがある。今時の日本では、異性愛主義 ヘテロセクシズム的な打算臭プンプンの「黒髪清楚」に押されて時代遅れになってしまったファッションジャンルだが、全盛期のギャル系ファッション(というよりはむしろ、「ギャル」という存在自体)に対して眉をひそめた大人たちは少なくない。下手すりゃ「悪」そのものとすら見なした人もいたかもしれない(大げさか)。何しろ、「ギャル」とはいわゆる「ヤンキー」の亜流のような「属性」なのだ。

 

 しかし、ギャル系ファッションとは、女性の肉体的な魅力や存在感を肯定するという意味では、性善説的なものである。そんなギャル系ファッションとは対極にあるのが、ゴスロリファッションだ。ゴスロリファッションは人工美志向であり、ギャル系ファッションのような「生身の人間」らしさや「生身の女」らしさを拒否するものである。そういう点では、実に性悪説的なファッションだと言える。 

 女性の肌の露出に対する寛容さとは、性善説的なものである。イスラム社会で女性の肌や髪を露出するのをタブー視するのは、性悪説的な価値観なのだ。ちなみに、海外には「ムスリムロリータ」もしくは「ムスリマロリータ」という新ジャンルのファッションがあるが(「ムスリマ」は「ムスリム」の女性形)、ロリータファッションは基本的に肌の露出が少ないので、欧米や中近東のムスリマの方々が創意工夫でこの新ジャンルを生み出せたのだ。それに対して、ギャル系ファッションだと、このような応用は利かないよね。

 世間では、オシャレへの関心を軽薄なものだと思っている人は少なくないが、私はむしろ、そのような決めつけこそが安直だと思う。ファッションとは個人の思想や価値観を示す「標識」である。人は、どのような格好をするかによって、自分がどのような人間かを世間に示す。ファッションとはかなり「思想的」なものなのだ。

 

 話は変わるが、私はお人形やファッションゲーム『コーデマニア』や『ガルショ』などのコーディネートで、ある雑誌の影響を大きく受けている。その雑誌はいわゆる「青文字系」と呼ばれるファッション誌の一つだが、その雑誌は紙媒体としては休刊してしまった。 

 私は2017年に紙媒体としてのこの雑誌の休刊のニュースを知り、アマゾンで予約注文して買った。それは永久保存版にしよう。私は思った。

 原宿系ファッション誌『KERA』の、紙媒体としての最終号である。今はデジタルで展開しているのだが、紙媒体として復活する可能性は、残念ながら低い。KERAとは全く違う方向性だが、ギャル系雑誌『egg』が一旦は休刊しながらも復活したのは奇跡なんだな。

 それに、KERAの姉妹誌だった『ゴシック&ロリータバイブル』も新刊が出なくなったのも寂しいね。これらの廃刊は何だか、女性の(そして男性の)多様性を認めない「保守的な」価値観の押しつけのせいではないかと、あたしゃ勘ぐりたくなる。ギャル系雑誌が次々と廃刊したり路線変更したりという動きもそうだな! 何だか忌々しい。今のこの国の嫌な空気を反映しているようで、実に苦々しい。何だか、変な方向で性悪説的な空気が漂う。 

 

 女性の多様性を認めない世界とは、同時に男性の多様性を認めない世界でもある。何て息苦しいのだろう? 私はこの国からだんだんと「自由」がなくなっていくのが許せない。世間や人間の価値観を狭めると、それだけ争い事が増える。つまり、パイの奪い合いが増える。パイの種類が多様で豊かならば、余計な奪い合いは必要ないのに。

 非「恋愛資本主義」的な、異性ウケを全く拒否している「硬派」なスタイルが廃れるのは実に残念である。ケラっ子の皆さん、それからギャルの皆さんも負けないで! 

 余談だが、私が思うに、KERAの読者さんは他の女性ファッション誌の読者さんに比べて、性的マイノリティの人たちの割合が高いのではないかと思う。この雑誌とは対照的な「赤文字系」雑誌は、いかにも「強制的異性愛」という言葉がふさわしいけど、KERAにはそのような男女の打算の匂いはないんだよね。そういう点では、一種の性善説があるのかもしれない。本当に自分自身のためのオシャレを楽しんでいる人たちのための雑誌がKERAなのだ。

【Kalafina - Magia】

 ド迫力の名曲。このグループが解散したのは実に残念である。ちなみに私は、現時点では『魔法少女まどかマギカ』を観た事がない。某コンビニのタイアップ肉まんなら食べた事があるけどね。