刺客の恋 ―クイーンズライク『オペレーション・マインドクライム』―

 私は広く浅く音楽を聴いているが、ハードロック/ヘヴィメタルでのお気に入りは、ドリーム・シアター、エヴァネッセンス、そしてクイーンズライチ改めクイーンズライクである。そのクイーンズライクの最高傑作であるアルバムが『オペレーション・マインドクライム』だ。アルバム発表当時のこのバンド名は「クイーンズライチ」というカタカナ表記だったが、当記事では、現在の「クイーンズライク」という表記にする。


 このバンドの最高傑作『オペレーション・マインドクライム』は、音楽的価値も極めて高いが、ストーリー性も優れたコンセプトアルバムである。物語の主人公、ニッキーは寄る辺なき身の上の麻薬中毒患者の青年であり、ある地下組織に組み込まれて刺客に仕立て上げられる。ニッキーをマインドコントロールする組織のリーダー、ドクターXは政府の乗っ取りを企んでいた。要するに、日本のオウム真理教などのようなカルト団体並びにテロ組織だが、人によってはむしろ、アメリカのチャールズ・マンソンの組織犯罪を連想するかもしれない。 

 ニッキーは、自分と同じ組織に所属する女性「シスター・メアリー」と出会う。彼女は元家出娘の娼婦だったが、ウィリアム神父と出会い、組織に取り込まれた。ニッキーは自分と似たような不遇の彼女と恋に落ちる。しかし、彼は組織の秘密を知る彼女とウィリアムの暗殺を命じられる。ニッキーはウィリアムだけを殺し、メアリーと共に逃げ出すが、組織の者に追われてメアリーを殺され、挙げ句の果てにメアリー殺害の濡れ衣を着せられて逮捕されてしまう。 

 麻薬中毒患者として精神病院に入れられたニッキーは、それまでの記憶を取り戻す。それが、この物語の続きへとつながる。

 「今、思い出したぜ…」 


 この物語の舞台は、アルバムが発表された80年代そのものだろうと思われるが、私はむしろ、近未来SFのような印象を抱く。楽曲を聴いていると、良質のSF小説を読んでいるかのような満足感がある。仮にこのアルバムの公式ノベライズの企画があるなら、誰が最適任者か? 日本人作家であれば『虐殺器官』の伊藤計劃氏が適任だったと思うが、その『虐殺器官』のジョン・ポールの立場はドクターXに似ていなくもない。

【Queensryche - Suite Sister Mary】

 敵ボスのドクターXって、実際に博士号持ちという設定なんだろうか? フィクションの世界では、ハンニバル・レクター博士や『虐殺器官』のジョン・ポールなどの知識人系の悪役キャラクターが少なくないけど、現実世界の犯罪者にも「ユナボマー」ことテッド・カジンスキー(元数学者)みたいな知識人崩れがいるよね。

 この曲のタイトルにある「suite」は「組曲」という意味だが、同音の「sweet」にもかけているだろう。