禁じられた楽しみ? ―榎本俊二『えの素』―

 ある夜、私は久しぶりに榎本俊二氏の『えの素』(講談社)を読んだ。すると、地震が起こってしまった。一瞬、バチが当たったのかと思い、二重に驚いたが、『えの素』とはそれぐらいバチ当たりな内容のギャグ漫画である。


 まずは、ウンコチンチンなどの強烈な下ネタがメインだ。女性キャラクターたちが美人も不美人も、シャレにならないセクハラ被害に遭っている。私がツイッターで相互フォローしているフェミニズム系の女性ユーザー様たちからは忌み嫌われそうだ。しかし、自分なりの流儀でフェミニストである私は、それでもこの漫画を嫌いになれない。現に、私以外にも女性ファンはいるのだ。

 主人公の前田郷介は、何もかもさらけ出す。ウンコもチンコも丸出し。前漢の高祖劉邦の下品エッセンスを純粋培養したような男だ。ちなみに加賀藩主の前田利常(利家の息子)は人前で自分の局部をボロリと見せるエピソードがあるのだが、まさか郷介のご先祖様じゃないよね? 

 郷介はドスケベ大魔王だが、自分に片思いするヒロインの一人菖蒲沢ひろみ(かわいこちゃん)の愛は拒絶する。ひろみの過激な行動に辟易しているからだが、郷介は「男は追われるよりも追うものだ」という美学のもとに彼女の愛を拒むのだ。そんな郷介が憧れるもう一人のヒロイン葛原さんは、普段は冷徹なクールビューティだが、いざブチ切れると過激な女王様キャラに変貌する。そんな葛原さんにどれだけしばかれようが、郷介ら男性キャラクターたちは葛原さんに心酔する。


 しかし、真のヒロインは葛原さんでもひろみちゃんでもない。郷介の後輩二比 にっぴススムの恋人である老女打戻 うちもどりタミである。この人は後半からこの漫画の事実上のヒロインとなる(一番の「華」はあくまでも葛原さんだが)。このススムとタミの愛の行方が『えの素』後半の中心となるのだ。まさかこのタミさんがヒロイン級の重要人物になるとは、初登場時には思いもよらなかったが、物語後半のタミさんは、前半よりも明らかに美人度が上がっている(そもそも、ススムの夢に出てくる若い姿のタミは美人である)。しかも、他のヒロインたちと共に戦うのがかっこいい。高齢女性をかっこよく描くフィクションは貴重だ。

 まあ、それでもこれは基本的にえげつない下ネタギャグ漫画なので、頻繁に読む訳にはいかない。読む人を選ぶだけでなく、読む時期を選ぶ漫画でもある。だから、これは大っぴらに人様にオススメ出来る代物ではない。特に、フェミニストや性嫌悪を自認する人たちには勧められない。しかし、私は嫌いになれないのね。まさしく禁じられた楽しみだ。

【David Lee Roth - California Girls】

 この漫画にふさわしい俗っぽい曲…と探してみたら、デイヴィッド・リー・ロス。失敬!